「コンヴィヴィアルシティ」のリサーチプロジェクトでは、現代社会において“個”として社会と関わりながら“自分らしさ”を追求する私たちが求める街を「CONVIVIAL CITY」と定義し、その街にまつわる要素をLIVE、WORK、PLAYの3テーマから探求する。
第一段は「LIVE ーライフスタイルと住環境」。人々が自律分散しながらも目的や価値観を共有することで緩くつながり、より柔軟で多様性が尊重される組織やコミュニティ、社会を形成していく自律分散型社会に即したライフスタイルとその舞台としての住まい、街のあり方を考察する。
「障がい者向けグループホーム」と聞くと、どんな施設をイメージするだろうか。公民館や図書館のような公的な建物や、病院のような施設が思い浮かぶのではないだろうか。そもそも何のイメージもわかない人もいるかもしれない。
グッドライフホールディングス株式会社の紀氏が運営するグループホームは一般的な戸建住宅やアパートを利用したアットホームな施設で、一般的な障がい者向けホームのイメージとは異なる。茨城県内で16施設あるキノッピの家、その日常には「福祉らしくない福祉」があり、障がい福祉をきっかけとした地域共生の一つのかたちがあった。
PROFILE
紀 林
GOOD LIFE HOLDINGS 株式会社
代表
1976年生まれ。会社勤めの傍ら、2018年にKINOPPI株式会社を設立。“障がいがあっても 住まいを選べる世の中をつくる”という理念のもと、障がい福祉未経験ながら、茨城県牛久市に最初の障がい者グループホームを開業する。障がい者家族と一緒に、地域全体で障がい者の生活を支えていける仕組みづくりに向け、グループホームをプラットフォームとした地域住民の福祉参加促進に注力する。また、「個別サポート付き障がい者向け住宅(サポ住Ⓡ)という「障がい者の地域生活移行モデル」の普及に努めることで、高齢者の社会参加(就労)の機会創出や、空き家となっている既存住宅のリサイクルなど、様々な地域活性化の効果を提唱。全国で新たに障がい者を支える役割を担う社会起業家・事業者の育成にも積極的に取り組んでいる。
精神障がい・知的障がい者への「ちょっとした生活支援」
南部:事業内容を教えてください。
2本柱の障がい者福祉サービスを提供(出典:GOOD LIFE HOLDINGS 株式会社)
南部:利用者はどのような方々なのでしょうか。
南部:生活支援とは、具体的には何をするんですか。
利用者が食卓を囲む(出典:GOOD LIFE HOLDINGS 株式会社)
一般的な障がい者向けグループホームという言葉のイメージと、キノッピの家の実態がかなり離れていることに驚いた。様々な主体を含む「共生」を考えるとき、当然ながらそれぞれの主体を解像度高く認識しなければ、共にあるための方法を考えられるはずはない。
認定を受けている精神障がい・知的障がいの約8割が軽度の方(令和4年厚生労働省調査)だという正しい認識を持つことがスタートだ。軽度の方々に必要な「ちょっとした生活支援」、キノッピの家ではどのように提供されているのだろうか。
「地域の年配者」による支援を対話と仕組みで支える
南部:キノッピの家は、社員の方が利用者の支援をしてらっしゃるのでしょうか。
南部:障がい者支援=有資格者でなければいけない、というイメージがありました。人生経験豊富な方々といっても、対人支援の現場に入れ替わり立ち替わり、未経験の方が入ることに難しさはないのでしょうか。
南部:対人支援の現場だと依存のリスクもありますよね。また支援側が親御さんのような優しい気持ちを持ち続けることが難しい瞬間もあるのではないでしょうか。
スタッフ同士で話し合う様子(出典:GOOD LIFE HOLDINGS 株式会社)
キノッピは軽度の障がい者が安心して生活できる場であると同時に、地域の高齢者が自分の人生経験を活かして社会貢献できる場であることが分かった。高齢者の力を活かそうというお題目は多いが、労働力の提供を超えて、働き生きる喜びのある職場を具体的に実現しているケースとして興味深い。
支援のあり方を各個人に委ねるのではなく、情報共有の仕組みと話し合いの文化で支え、地域のリソースを活用し還元しているモデルといえる。
障がい者支援を中心に地域コミュニティが構築されている
(出典:GOOD LIFE HOLDINGS 株式会社)
利用者家族との対話によって気づいた自分のミッションと情熱
今でこそ地域共生社会づくりを目指す紀氏だが、福祉とはまったく縁のない経歴だという。
南部:創業されて4年、独立されて2年とのことですが、福祉に縁がなかったのに、なぜグループホームを作ろうと思われたのですか。
南部:お子さんの学費がきっかけだったとは驚きました。そこからどのように地域共生社会へのビジョンを持つようになったのでしょうか。
南部:今、どんなことを目指していらっしゃいますか。
「当事者の家族の声を聞き、対話を重ねる中で、これは自分のお役目だと思った。」
その言葉の表れであるように、紀氏の事業は、当事者の家族支援や地域づくり、このモデルを広げるための仲間づくりなど、多角的に展開し、福祉の意義と価値をアップデートし続けている。
持続・拡大可能なビジネスを作る事業家であり、地域での自立共生社会を作るソーシャルイノベーターである紀氏の思いは、終始、誰にでも分かるシンプルな言葉で語られる。
「共生とは必要とし合い、お互いに喜びがある」
地域の課題解決とイノベーションにおいて、忘れてはならない原則なのではないだろうか。
紀:障がい福祉サービスの事業を2つ、茨城県でやっています。1つは障がい者グループホームといって、スタッフを配置して生活支援を提供する、精神障がい・知的障がいのハンディキャップがある方向けの住まいの運営です。茨城県内に16ホーム84居室あります。
もう1つは、キノッピカフェという障がい者の就労支援事業です。地域で就労し、働き続けることができるよう様々なサポートを提供する就労支援B型事業所といわれるものです。
身体障がいの方はほぼいらっしゃいません。うちは既存の住宅を使ってホームを運営してるので、バリアフリーではないんです。戸建住宅の各部屋を居室にしたり、小さいアパート一棟をそのままグループホームにしていて、一見すると普通の家なので、見学にいらした方に驚かれることも多いです。