コンヴィヴィアルシティ ーライフスタイルと住環境

CONVIVIAL CITY: LIVE

原田 真希 anow編集部 エディター/リサーチャー

テクノロジー系総合研究所の研究員。元不動産ディベロッパー系シンクタンクの研究員。都市、テクノロジー、イノベーションを軸に、リサーチします。誰もが自分を主語に未来を語る、そんな社会が訪れるよう、anowを通じて“個”の支援に注力します。


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「コンヴィヴィアルシティ ーライフスタイルと住環境」のリサーチプロジェクトでは、現代社会において“個”として社会と関わりながら“自分らしさ”を追求する私たちが求める街を「CONVIVIAL CITY」と定義し、その街にまつわる要素を探索していく。

第1段は「LIVE ーライフスタイルと住環境」にフォーカスし、ライフコース、ジェンダーを含む自己認識、居住や家族に関する価値観が複雑化する現代社会で、私たちはどのように暮らしたいのか?自己組織化した個が分散しながらも目的や価値観を共有することで緩くつながり、より柔軟で多様性が尊重される組織やコミュニティ、社会を形成していく自律分散型社会に即したライフスタイルとその舞台としての住まい、街のあり方を考察する。

リサーチプロジェクトは今後、「WORK ー働き方とワークプレイス」、「PLAY ーアミューズメントと購買意欲」と続く。LIVE、WORK、PLAYの3軸で要素を具体化し、CONVIVIAL CITY MAPとしてビジュアライズすることをめざす。

CONVIVIAL CITY MAPのイメージ

“個”の確立と多様化

CONVIVIAL CITYの前提となる現代社会における“個”の確立については、anow発足時から触れてきている。

今までは、会社や組織に勤め、それらを通して社会と関わっていた時代。
これからは、様々な所属を持ちながらも、“個”として社会と向き合っていく時代。

【特集0】SOCIAL QUANTUMS make another now to happen.

私たちは今、様々な場面で“自身”の価値観とそれに基づいた選択を求められている。その結果、“個”は多様化し、またそれぞれ確立したものになってきているのではないだろうか。

例えば人生100年時代といわれる今、私たちの人生はEducation(教育)、Work(仕事)、Retirement(引退)の3ステージ制から、Explore(自己探求)、Independent Produce(独立生産≒起業)、Portfolio Work(副業/兼業/複業)、Transition(移行期間)などのステージをより柔軟に自身で選択するマルチステージ制へと移行している。誰もがマルチステージライフを自ら計画し、学校や職場だけでない居場所を見つけ、社会との関わりを模索していく必要があるのだ。

人生が3ステージ制からマルチステージ制へ

リンダ・グラットン氏は著書である『LIFE SHIFT-100年時代の人生戦略』の中で、「同世代の人たちが同時に同じキャリアの選択をおこなうという常識は、過去のものになっていく。長寿化を恩恵にするためには、古い働き方と生き方に疑問を投げかけ、実験することをいとわず、生涯を通じて「変身」を続ける覚悟をもたなくてはならない。」と述べている。

“個”=人々の相互作用

マルチステージライフへの移行によって人生の至る所で他者の基準ではなく自身の基準での選択が求められる現代社会では、人々の関わり方も変わってきているように思える。私たちは他者を否定せず、他者の個性に寄り添うことで、私たち自身とその未来の多様な選択肢を否定せず、狭めないようにしなくてはならない。

そして人々の関わり方が変わることによって、人々が属する組織や企業、共同体の在り方、ひいては社会の在り方も変容している。組織や企業、共同体、社会のあり方として一方向的な目的を設けることはもはや不可能で、人々はそれぞれの目的を達成するために分散しながらも、目的の一部や価値観を共有することで緩く集う。そのため、企業や組織はより透明性が高く、フラットなものに、そして社会はオープンで双方向コミュニケーションによって成り立つものになってきているのではないだろうか。

自律分散型社会との関係

オープンで双方向コミュニケーションによって成り立つ社会というと、近年、めざすべき社会のあり方として経済学、社会学、哲学など多くの分野で議論されている「自律分散型社会」があてはまる。

自律分散型社会とは、自立した“個”や”グループ”が従来のような中央集権的な統制や指示に頼らずに、分散されたネットワークの中で自律的につながりながら形成する社会のことだ。(※詳細な定義についてはデスクトップリサーチレポートを近日発行予定)

現在は自律分散型社会への転換期にあると考える者も多い。実際に、「社会を担う/形成する」という感覚を持ち合わせる人はまだ少ないかもしれないが、今の社会に漠然とした違和感や疑問、懸念を持つ人は増えているのではないだろうか。そしてそんな私たちは「社会を変えたい」という強い意志を持っていたり、大きな括りで社会情勢、社会変革を考えた行動はしていなくても、もっと小さな自分と自分の周りにいる人や、自分と自分の住んでいるエリアといった括りで日常をほんの少し良くするためにつながり、行動しているのではないだろうか。それはまさしく自律分散型社会のあるべき姿だ。

自律分散と自立共生

今回のリサーチプロジェクトに掲げる「CONVIVIAL」という単語は、近年「自立共生」と日本語に訳されることが多いが、元はラテン語のconvivereに由来する。conは「共に」、vivereは「生きる」、英語で“live together”=「共に生きる」という意味で、従来は「宴」や「会食」を意味した。

CONVIVIALという言葉に自立共生という意味をもたらしたのは、イワン・イリイチ氏だ。イリイチ氏は1973年に著書『Tool for Conviviality』で、人間関係の中での協力や支援、自己決定の重要性を強調し、技術や社会制度は人々の自己決定や自己実現を支援する「コンヴィヴィアル」なアプローチであることが重要だと主張した。

「産業主義的な生産性の正反対を明示するのに、私は「Conviviality=自立共生」という用語を選ぶ。私はその言葉に、各人のあいだの自立的で創造的な交わりと、各人の環境との同様の交わりを意味させ、またこの言葉に、他人と人工的環境によって強いられた要への各人の条件反射づけられた反応とは対照的な意味をもたせようと思う。私は共生とは、人間的な相互依存のうちに実現された個的自由であり、またそのようなものとして固有の倫理的価値をなすものであると考える。」(イヴァン・イリイチ著『Tool for Conviviality(邦題:コンヴィヴイアリティのための道具)』渡辺京一・渡辺梨佐訳)

今回anowでは、あえて自律分散型社会における街ではなく、「CONVIVIAL=自立共生」な街をテーマに据えている。

それは人々が住まう街を考察する際に、社会という漠然としたものではなく、人々が生きる上でのツールとしての「街」と捉え、イリイチ氏の言う「人々の自己決定や自己実現を支援する技術や社会制度」としたいと考えたからだ。人々が集い、自己表現できる余白があり、住宅やオフィス、娯楽施設は多様な選択肢を包括する機能や制度の上に成り立ち、人々が自分事として捉えまちづくりに関わっていける街、そして人々がより自由に生きることが出来る街が「CONVIVIAL CITY」なのではないか。そして現状では、その街はおそらく自律分散型社会の上で成り立つと仮定している。

これからリサーチプロジェクトを通して、「CONVIVIAL=自立共生」と自律分散型社会の定義とそれらの関係性、街を取り巻く現行制度の整理、私たちが日常生活や住まいに求めるもの、新しい自己表現や住まい方の実例、そしてそれらを街というツールに落とし込んだ際の具体的な要素について探っていく。

原田 真希 anow編集部 エディター/リサーチャー

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