エデュケーショナルイシューマップ ー教育のイシューからはじめよう

EDUCATIONAL ISSUE MAP

田中 滉大 anow編集部 プロデューサー

デジタルメディアエージェンシー、人材スタートアップ、ライフスタイルデザインスタートアップを経験し、企画ソロレーベルKUMO KIKAKUを主宰。
「個人の幸福と手の届く社会の幸福」をテーマに、プロダクトやサービス、まちづくりなどの企画を行っています。
個人を優先しすぎるのではなく、社会を優先しすぎるのでもない、それぞれが最適に結びついた「新しい時代の当たり前」をanowを通じて探していきたいと思います。


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教育というテーマは非常に広範であり、誰しもが関わりを持つものだ。

日本は義務教育において、就学率がほぼ100%※1であり、現代を生きる私たちは教育を受けるということに何ら疑問を感じることはないだろう。
※1 UNESCO 「Gross enrolment ratio by level of education」より

昨今の人材育成の緊急性やセルフキャリアデザインの重要性に対する意識の上昇に伴い、「リスキング教育」など社会人後の生涯教育も活性化し始めている。

しかし、教育を当たり前のように感じながらも、私たちは教育に課題が存在していることも理解しているだろう。例えば、誰しもが就学できる状況にいながらも、その内部で教育格差といった問題が存在する。これは、受験・テスト志向である日本の教育制度において、塾など外部教育機関の利用に際した家庭の経済格差による教育機会へのアクセスの格差の問題であり、これは教育がその領域に閉じるものではなく、様々な社会の側面とリンクしながら存在していることを示している。
参考 朝日新聞デジタル 「教育格差の議論から抜け落ちていること 無料塾から見えた社会の課題」↗

現在、日本の教育はどのような課題意識を持ち、かつ解決に取り組もうとしているのだろうか?

教育振興基本計画から読み取れるもの

日本における教育方針の方向性決めに関わるものとして、文部科学省が2008年から現在まで4回に渡り策定している「教育振興基本計画」※2が挙げられる。これは、2006年の教育基本法改正に伴い、基本法の内容に沿った幼児〜高等教育に関する5ヵ年単位での計画であり、国全体の教育方針や目標、指標を策定したものである。
※2 文部科学省 「教育振興基本計画」↗

2024年現在、施行されている第4次教育振興基本計画は、以下の通りだ。

構成としては、計画の大きな方向性としてのコンセプトと、基本方針で構成されており、それらに基づいて複数の具体的な指標が設定されるという形となっている。
2027年までの計画である第4次計画では、「持続可能性」と「ウェルビーイング」を指針として、①グローバル化対応、②多様性への配慮、③地域一体の教育、④教育DX、⑤ステークホルダー連携といった方針が設定されている。

では、過去に策定・実施されたその他の計画は、それぞれどのような特徴を持って作成されたのだろうか。

文部科学省「教育振興基本計画」関連資料よりanow編集部作成

上記の図は、第1次〜第4次までの教育振興基本計画における方針内容とそこから見える課題意識について整理したものである。

第一次計画においては、比較的「社会に/への教育を通じたコミットメント」といった方向性が強く、多様性といった側面への配慮の意識はありながらも、学力向上といった「学習能力と成績的な成果」という指標が設定されているように感じられ、成績優秀者による社会貢献性とそのような”優秀”な人材の社会による形成がアウトカムとして考えられているように思われる。

しかし、第二次以降は、「自立性」をテーマとした学習者像が共通して見られ、制度や組織に依存するのではなく、自身の力で将来を切り開き、社会貢献できるような学習者像が想定されている。コミュニティを含む協働性の向上や、多様性への配慮といったものも共通しており、ここ10年間では同様の特徴を持った計画が策定されてきたと言えるだろう。

このように自立性の成長・強化といった共通する点=引き継がれている点は多くある一方で、その時期ごとに特徴的な社会状況に呼応するかのような方針を取っていることも上記の図から確認できる。例えば、第2次計画(2013年)において、第1次にはなかった「コミュニティの形成」の観点に関しては、2011年の東日本大震災をきっかけとした日本国内における協働性への注目や、連帯することへの関心の高まりが背景にあると思われる。

第4次計画に明言されるようになったグローバル化した社会を前提する人材育成に関しては、スマートフォンやPC、SNSの普及が世代を問わず国内に浸透したことなどを背景として、若年層におけるデジタル上でのグローバルコミュニケーションと情報取得が常態化し、グローバルな観点での経済的・社会的な意識が高まったことを反映している。日本の国際競争力の低下や少子化などに伴う生産性の停滞といった点から、国際市場をスコープした子どもの能力育成といった意識もあるだろう。

日本の教育課題意識を考える

教育振興基本計画は社会環境の変化と合わせて策定されており、そこには社会変化によって生まれる課題意識が関係している。

前述した「グローバル化への対応」という点に関しては、国際的な市場の拡大によって日本人の英語の”使用”の面における課題や異文化理解力という面での能力不足という意識がその背景として考えられるし、「多様性への配慮」という観点においては、ハラスメントに対する意識の向上による既存の教育現場や子どもへの対応のあり方とのミスマッチといった事情が課題意識がきっかけとなっているだろう。

教育振興基本計画は日本における教育のあり方とそれによる社会のあり方を幅広く反映したものであるが、そのスコープには入りきれていない課題の観点もある。
例えば、昨今の生成AIの爆発的な成長と普及を背景とした、教育現場におけるAI活用に関する議論が挙げられるだろう。

OpenAI社のChatGPTやGoogle社のGeminiなど、巨大テックカンパニーが相次いで生成AIを発表し、ビジネスシーンを中心に広がりを見せているが、各社共通して18歳以下に利用制限をかけており、若年層に対する活用の危険性が議論されてもいる。
学校校務における教師の生成AI活用や教材等での利用、生徒の学習における利用など、教育現場においても生成AIの活用の可能性は議論されており、どのように教育とAIの問題を考えるかは私たちの直面している教育課題と言えるだろう。

しかし、現在進行形の第4次教育振興基本計画では、教育デジタルトランスフォーメーションに関する言及はありながらも、AIに関する活用や規制等の観点には触れられていない。

戦後日本において特徴的な「単線的な教育制度における受験・偏差値主義」的な教育目標のあり方という課題もそうだ。
日本の教育制度において、小学校・中学校の義務教育期間から高校・大学などの高等教育まで、基本的には一直線のキャリアパスが設定されており、高専や短期大学など多少の異なるパスはありつつも、概ね単線的な形態をとっている。子どもたちは限られたパスのなかでステップアップしていくこととなり、そこには必然的に競争が生まれる。その結果、「受験」という競争手法が広く採用され、学校教育に期待されることも、いかに学力を向上させて受験に合格させられるかというものになってしまっていることは、多くの人々が感じていることだろう。

一方で社会の複雑化や個人の多様性配慮などの観点から、昨今この受験主義・偏差値主義的な学校教育のあり方に対しての疑問や批判も高まっている。例えば、東京都の港区立麹町中学校では、工藤勇一校長(現・横浜創英中学・高校校長)の着任した2014年から様々な学校改革を進め、定期テストや宿題を廃止することで、生徒たちの自主的な学びの姿勢の形成を促進し、無意識的に受験を志向し進学するという形ではない、自立的な興味関心の育成と多様な将来像の形成に取り組まれた。
参考 朝日新聞教育ポータル 「定期テストも学級担任も廃止…千代田区立麴町中、画期的改革に『シンプルな共通項』」↗

この点からも見えるように、国全体の教育方針からもこぼれ落ちてしまう教育における(および教育と関連する)課題は多く存在しており、私たちが教育課題へ取り組む場合にはそれらの視点も内含した包括的な課題認識を持つ必要がある。

EDUCATIONAL ISSUE MAPで目指すもの

これまで述べてきたように、日本全体の教育の問題を俯瞰するためには、より包括的な視点で教育課題を整理する必要がある。

anowでは「EDUCATIONAL ISSUE MAP」というリサーチプロジェクトを立ち上げ、上記の包括的な教育課題のマップ化に取り組むことにした。
このプロジェクトでは、現在議論が盛んになっている教育課題や、教育にもつながる社会課題に関する調査レポート、多様な教育課題に対する意識調査・アンケート、それら課題に対しての様々な解決策の実践者インタビューを行う。

そして、それらの調査結果を元に、教育課題を俯瞰できるマップドキュメントをツールとして作成し、配布することを目標とする。全ての人が教育に取り組み、これからの社会デザインに参画できるきっかけを提供したいと考えている。

田中 滉大 anow編集部 プロデューサー

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