【前編】“痛み”を“希望”に変える~talikiが目指す「生まれてよかった世界」への挑戦

株式会社TALIKI代表取締役CEO 中村多伽氏

田中 滉大 anow編集部 プロデューサー


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今日泣いている誰かが、明日「生まれてきてよかった」と思えるような社会であってほしい。

このような“祈り“を込めて、社会起業家たちの支援を行う会社がある。

関西を中心に社会起業家への育成や投資、企業と起業家に対するオープンイノベーションの支援などを展開する株式会社talikiだ。

SDGsというキーワードが広く認知されていなかった2017年の創業から5年間で、数100社の社会課題解決に関連する創業・事業成長を支援していることからも、社会起業支援という領域を牽引するパイオニア的存在であるといえるだろう。

創業者である中村多伽氏は、大学時代にtalikiを創業、多くの社会起業家の想いに並走し、応えてきた。

そこで今回、前編では、その立場から見える「社会に向き合う人への支援のあり方」や「社会起業家が“本音”で求める支援」についてインタビューした。

特集0:「SOCIAL QUANTUMS make another now to happen. 社会の小さな担い手が、新たな“当たり前”を創り出す」

今回の特集では、anowと同じく社会を担うために奮闘する“個”を支援する人や組織、コミュニティ、また彼らの存在の意義や定義を考える研究者へのインタビューを通じて、SOCIAL QUANTUMSのあり方や、彼らが活躍していくための条件・要素を深掘り、anowが描く”個と社会の理想的な姿”の糸口を探る。

PROFILE

中村 多伽 株式会社taliki 代表取締役CEO / talikiファンド代表パートナー

1995年生まれ、京都大学卒。カンボジアに2校の学校建設を行った後、ニューヨークへ留学。現地報道局に勤務し2016年大統領選や国連総会の取材に携わる。様々な経験を通して「社会課題を解決するプレイヤーの支援」の必要性を感じ、帰国後に株式会社talikiを設立。社会起業家のインキュベーションや上場企業の事業開発を行いながら、2020年には国内最年少の女性GPとして社会課題解決型ベンチャーキャピタルを設立し投資活動にも従事。

大学時代、ミクロとマクロの間で感じた”プレイヤー数”の必要性

中村氏は、京都大学在学中にカンボジアへ小学校を建設するプロジェクトに取り組んだ経験から、社会課題における「根本的な問い」に向き合うようになったという。

カンボジアでの小学校建設は、地域の子どもたちにとっても喜びだった。

中村:たとえば、家庭の収入の問題で学校に通えない子供にとっては、学校ができたとしても通えない。また、先生の教育の質の問題で、進学ができない子供がいるといった課題もありました。

そんな状況なのに、地域の教育委員会のような組織のトップの方が、学校にレクサスで訪れているという、いびつさを感じる状況を目の当たりにして、「構造的な欠陥がある」と思ったんです。

そこで気づいた“構造的な欠陥“に対してアプローチするため、中村氏はニューヨークのビジネススクールに留学し、その傍ら現地の報道局で働くことで、カンボジアではできなかった「大きな組織による、大きな社会システムに対する課題解決」を試みた。

その当時は、元アメリカ合衆国大統領であるトランプ氏の大統領選挙選中ということもあり、選挙戦や国連総会などに取材で赴き、多くの情報を国民へ伝えるサポートをした。

しかし、そこで中村氏が感じたのは、「大きな組織では、本質的なアクションまで辿り着けない」という気づきだった。

報道局勤務時代、アメリカで様々な場所に赴き、人々の声に耳を傾けた。

中村:結果的に、組織が大きいが故に、本質的な活動にたどり着くまでにすごく時間がかかるとか、そもそも辿り着けないという状況だということが分かり、「別にでかい組織だからって、でかい課題が解決できるわけじゃないんだな」ということを、遅咲きながら気付いたんですね。

そして、報道局で働いている中で、世界中の様々な課題を毎日知ることで、社会課題は一つの大きなソリューションで解決できるのではなく、一つ一つの課題に対してアプローチする「多様な民間の存在」が必要だという気付きを得ました。

かつ、民間がうまく課題にアプローチするためには、リソースの流れをデザインしたり、そのリソースを獲得するためのテクニックが必要だということにも気付いたんです。

中村氏は、限られた特定の存在=ミクロに注目しすぎるのではなく、パワーを持った大きな存在=マクロに寄与しすぎるのでもない、「さまざまな問題に対して、さまざまな解決をおこなっていく“プレイヤーの絶対数“を増やす」ということに照準を絞り、talikiを創業することを決意した。

talikiの考える「多様な成長を描ける選択肢」という支援側のあり方

talikiは、4つの事業を展開している。

まずは、現在のメイン事業である「インキュベーション事業」だ。年間50以上の企業や起業家に対して、創業前の段階や既存企業における事業立ち上げの並走支援をしている。

その次に、事業の成長促進やソーシャルインパクト拡大のための「投資事業」である通称“talikiファンド”の運営だ。現在12社に対しシードラウンドを中心にした投資をしている。

また、成長の過程で大企業など他社との協業機会を創出する「オープンイノベーション事業」や、社会起業家たちの知見・ノウハウを対外的に発信する「メディア事業」など、社会起業家が生まれやすい環境づくりにも取り組んでいる。

全ての事業において共通しているのは、やはり「社会課題を解決する」という想いと事業目的を持っている企業・起業家に絞っているという点だ。

中村:基本的には、社会課題解決を「目的に置いている」起業家の方を支援したいと思っています。

利益を優先する起業のあり方を全く否定する気持ちはないですが、talikiとして行いたいのは、社会課題が前提となった上でそこに持続可能なビジネスモデルを一緒に作っていけるかという点なので、目的のあり方は重視しています。

talikiでは「全体最適の歪み」というものに注目して、社会課題をとらえています。

多くの社会課題は、大半の人によって都合が良くて便利な社会を作っていこうとしたことで、限られた人たちにとって大きな課題が降りかかってしまっている構造だと思うんですね。

その歪みが起きてしまう全体最適の流れに逆行して、アプローチしていくことを、talikiでは社会課題解決という括りで考えています。

中村氏曰く、社会課題解決を最上位の目的としている起業家へ投資・事業並走する中でも、さまざまな考え方があるという。

中村:世界中の投資家が検討しているところではあるんですけれど、社会課題解決の中でも、儲かりやすいものと儲かりにくいものというグラデーションがあるんです。

社会課題解決と経済性が最初から両立するようなケースとして、ヘルスケア領域などは多くの国・人々にとっての課題解決になりながらも、成長規模が大きいため経済性も担保されている。

逆に、お金を稼ぐこと自体が成り立たないというものも当然存在するんですね。例えば、ウクライナへの人道支援など、寄附を活用する方が解決につながるというものもあります。

結局のところ、「事業の特性」という点と「起業家の志向性」という点を掛け合わせた上で、どのような成長像や成長するための手段を選んでいくかということが重要だと思います。

そこで、talikiでは、起業家がどのような企業・事業のあり方を目指すのかに関して徹底的に議論するという点をまず重視し、その上で、大きく2つのパターンの投資方法を実施している。

一つは一般的な株式の取得と引き換えにキャピタルゲインを得るという「エクイティ投資」。もう一つは、株式の取得はなく投資を行い事業成長に伴う利益から配当が行われる「レベニューシェア型投資」だ。

talikiの提供する資金調達手段の比較表(作成者:株式会社taliki)

エクイティ投資は必然的にIPOを目指して株式を高い値段で売却することを目的に投資されるため、企業成長のスピード感や市場におけるシェアの拡大など市場性に重点が置かれ、急速な企業拡大に適している。しかし、株式の放出を伴う投資形態のため、経営に対する投資家の発言力も強まり、起業家の理念や企業のパーパスの優先度が下がっていくことも発生する可能性がある。

一方、レベニューシェア型投資の場合、株式ではなく、売上から一定割合の配当を受けるという形態の投資方法のため、投資側の直接的な経営権・影響力が発生しにくい。また、企業の事業利益が投資側の利益にも直結するため「投資側が企業の成長やビジョンの実現に協力的になりやすい」というメリットがある。起業家と投資家が共に「目指したい成長」を描き、その実現のために協力し合うことで、成長とビジョン実現のバランスがとりやすい。

起業家ごとに社会課題解決と企業成長のバランスのグラデーションを描くため、talikiは複数の投資・支援パターンの選択肢を提示し、できるだけ支援先に対して最適な支援のあり方を描こうとしている。

試行錯誤でたどり着いた”安心できる場”という行動者の本音

多様な事業構成、可能な限り最適化された起業目的別の支援方法など、talikiの機能面について触れてきた。

そこには、社会に対する問いを解決の力に変えていこうとする起業家へ、精一杯寄り添いたいというtaliki、そして中村氏の強い想いが反映されている。

しかし、中村氏は、「それだけ(=機能だけ)では不十分であることが、経営する中でわかってきた」と言う。

では、talikiの支援する社会起業家たちから、機能だけではなく、どのような支援を求める声が出たのだろうか?

中村:起業家のほとんどが、「ヒト・カネ・情報」は大前提として支援してほしいという想いがあると思います。

それを提供できた上で、起業家たちからも喜ばれているものでいうと、「心理的安全性が担保されつつ、ポジティブな成長やスクラップ&ビルドがサポートされるコミュニティ」があるということだったんですね。

同じ世代同士で一緒に高めあったり、互いが社会課題に対して取り組もうとしているというリスペクトしている関係性があるという状態で、自然とコミュニケーションができる。

それが、支援先の満足度と実際の成長度に最も繋がっているという結果として出てきたんです。

このような社会起業家たちからの声に至るには、taliki自身の“失敗経験”があった。

中村:私たち自身、様々な機能を起業家に提供して、もう出し尽くしたというところで、支援先の成長度合いが劇的には変わらないという“失敗体験”があったんですね。

そこで、機能的な部分だけでは、非連続的な成長やセレンディピティを生み出していくことはできないという気づきを持ちました。

であれば、ここに集まることで生まれる“雰囲気”をデザインするしかないんじゃないかという答えに行き着きました。

ビジネスという領域にいると、どうしても機能面や目にみえる道理性、計算可能な指標にばかり注目してしまう。

その結果、コミュニティへの安心感の欠如や、関わる人たちの人間性に基づいたモチベーションを喪失させてしまうことも、多くみられる。

talikiの重視する「雰囲気」という一見ファジーでとらえどころのないものは、支援・被支援という枠組みを超えて、重要な視座を与えてくれている。

”はじめの一歩”の支援者でありたい

ここまで、社会課題解決に対する支援を行うというtalikiの機能や、機能を補完する環境のデザインについて話を聞いてきた。

その上で、中村氏に「talikiがこれから目指すものは?」という質問を投げかけてみた。

中村:いま、ソーシャルインパクトに対する投資自体は、世界で見るととても成長してきているんですね。

一方で、投資側は起業側を「育ったら、刈り取る」というスタンスで見ているという現状があるんです。

その結果、そもそもの「起業家を育てる」、「事業の種に水を与える」という点に課題が生まれているんです。

やはり、投資側からすると社会課題解決かつシードという不確実性がかなり高い段階で投資をして長い期間を支援し続けるという選択を取りたくないですし、実際に取らないという人たちも多くて。

その段階から支援をしていく存在がもっと増えていくことを望みながら、私たちが率先して“はじめの一歩”に対するサポートを行い、次の成長ステージを支えられる投資家・支援者へパスをしていけるような役割を担いたいと思っています。

実は、筆者自身も、社会課題解決を目的としたサービス立ち上げを経験しており、その中で最も悩ましかったのは「最初の投資がなかなか受けられない」という点であった。

その点、talikiという存在が導き手として、社会起業家の“はじめの一歩”に向き合い、支援機会を提供することは、立ち上がったばかりの企業・起業家にとって何よりも望むものであると思える。

冒頭から一貫しているtalikiの「応援したい人に向き合いながら、社会のあり方に向き合っていく」という点は、関係者だけでなく多くの人々・企業にとって学びとなるあり方ではないだろうか。

取材場所協力:engawa Kyoto

田中 滉大 anow編集部 プロデューサー

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