「Regeneration of LIFE 人・社会・地球のウェルビーイングをともに創る」を掲げ、気候危機の解決に取り組む一般社団法人ワンジェネレーション。
代表理事として活動をリードするのは、幼少期から生物や環境に興味を持ち、「この課題と共に生きてきた」と表現しても過言ではない久保田あや氏だ。
昨年6月から8月までの3カ月間は、北半球の夏としては観測史上最も暑く、EUの気象情報機関コペルニクス気候変動サービスの報告書によると、1991年から2020年にかけての平均気温を0.66℃、これまでの最高記録を0.29℃も上回った。
最も暑い夏となった2023年を経て、久保田氏は何を見ているのだろうか。
PROFILE
久保田 あや
一般社団法人ワンジェネレーション/RegeneKO
共同代表
幼少期より、植物と親しみ、有用微生物を応用した環境浄化技術の実践、指導を海外十数カ国にて行う。一方で心理学など人の内面の構造を探究しながら、子育てをきっかけにオルタナティブスクールを沖縄と八ヶ岳で創設。
2018年気候危機を肌で感じ、自然の中での暮らしや、森の保育などで生命の営みに深く触れ、活動をシフト。環境本「ドローダウン」と「リジェネレーション」の出版企画及び協力プロジェクトを行う。地域では、子育て仲間と台所からの地球再生を目指し、活動中。山梨県在住。四児の母。
地球再生活動の鍵は、人が人の可能性にチャレンジすること
久保田氏が代表理事を務める一般社団法人ワンジェネレーションの活動は、気候危機に関する書籍の出版、教育プログラムの作成、解決策の包括的リストの作成と、多岐にわたる。
今、気候危機に対する取り組みとして「持続可能」のさらに先をめざしているという。
エコやサステナブルという言葉は我々の生活において日常的に聞かれるようになり、この文字があれば「地球に良いこと」という安心感さえある。しかし、もう「持続可能」では足りないという状況だと久保田氏はいう。積極的再生のために具体的には人は何ができるのだろうか。鍵となるのは「地球温暖化を逆転する ドローダウン」と「気候危機を今の世代で終わらせる リジェネレーション(再生)」だ。
ドローダウンとは、「大気中の温室効果ガスの濃度がピークに達し、前年比でマイナスに転じる時点」を指す。プロジェクト・ドローダウンは、米国の環境活動家で起業家のポール・ホーケン氏が、すぐにでも実行に移せる最も効果的な解決策を仮定し、それが実行された場合のインパクト、実行に必要な費用を明らかにするために始めたもので、100の確実な解決策を特定、評価、モデル化している。
久保田氏の所属するワンジェネレーションは、日本語版を企画、出版協力し、2020年に日本語版が山と渓谷社より出版された。その後、ドローダウンの続編である「気候危機を今の世代で終わらせる〜リジェネレーション(再生)」の出版企画協力も行なっている。
そんな思いがまた1つの形になって表れたのが、2024年元旦にリリースされた「Nexus JP βVer. -私たちの世代で気候危機を終わらせる 生命の再生 解決策リスト-」だ。気候危機を前に立ちすくむすべての人の「何ができるか」に答えるもので、包括的で具体的な解決策を分かち合う場である。6つの枠組みと12の問いで整理された解決策は、運営からのみ提供されるのではなく、サイトを見た人や団体からの情報提供も積極的に受け、みんなで作る「私たちのリスト」として育てられていくそうだ。
生命への信頼と尊敬を中心に置き、決断し、行動するためのリスト。温かく力強い取り組みに未来への希望を感じた。
「自然が友達」だった子ども時代に環境へ関心を持つ
久保田氏の持つ気候危機解決に対する情熱は、幼少期から徐々に育まれたものだという。海のそばで育ち、自然の中にいることが心地よく感じる子どもだったそうだ。
久保田氏は「なぜ人間は生き物を簡単に殺し、住処を奪ってしまうのか」というシンプルで深い問いを通して、幼い頃から一貫して「命」というものと向き合ってきた。そこには、人間の命を「自然にあるすべての命のうちの一つ」と捉える人間観が表れている。
人間のあり方に対する疑問や憤りを感じながら、何ができるか問い続け、活動し続けてきた久保田氏。そこまでの思いの根底には「平和への願い」があるという。
環境問題の解決には人間の意識のシフトが必要
環境問題は学校教育でも扱われ、関連ニュースはあらゆるメディアに流れ、行政も民間も様々な団体が活動している。「環境問題の解決が重要だ」と知らない人はいないだろう。
それなのになぜ、環境問題は解決されないのか。
幼少期からずっと環境問題と向き合って来た久保田氏は、環境問題の現状をどう見ているのだろうか。環境問題は解決に向かっているといえるのだろうか。
買うという行為について考えることや、環境問題について考えることが重要だとしても、あまり自分事には捉えられないという人は多いのではないだろうか。そこに目を向けられないのは、ただ関心がないからではなく、「なるべくそれを見たくない、目を逸らしたい」という心理があるからだという。
気候危機のように長期的で壮大な問題を直視したとき、途方に暮れたり、自分たちの無力さを嘆いたり、打ちひしがれることの方が多いのではないだろうか。その中で、自分にある本当の願いに繫がり続けるためには、何が必要なのだろうか。
人間の可能性を信じる
「すべての生命が調和的で世界が平和であること」
この願いに向かい、ひたむきに、それと同時に人間らしく、着実に歩みを進める久保田氏。ご自身をシフトさせたのは「人間の可能性への気づき」だという。
久保田氏は、ワンジェネレーションで気候危機に関する意識変革へ取り組む傍ら、今年から「Regeneration from Kitchen Organization」という団体を立ち上げた。「台所からの地球再生」をコンセプトに、コンポスト活用や、再生型のくらしづくりをしていくなど生活の中でできる様々な取り組みを地域の人たちと実践するコミュニティだ。
久保田氏の語る幼少期から現在へのプロセスは、「人間が人間をどう捉えるか」という人間観の変遷とリンクしている。
「人間は自然を破壊する悪だ」という懲罰的な見方から、「人間は自然の一部である」という全体性を重視する見方へシフトしたこと、そして、人間は自分たちが持つ知性を活かし、積極的再生を地球にもたらせるということへの気付き。この2つが久保田氏が人々の意識変革、そしてより具体的な地球再生への実践に取り組む原動力だろう。
私たち一人ひとりも、地球と自身の関わり方の意識をシフトし、すぐにでも始められる小さな実践を積み上げていくことが、気候危機、そして全ての地球環境問題を解決する糸口になるのではないだろうか。
久保田:これまで、サステイナブル、持続可能ってずっと言われていたと思うのですが、それじゃもう足りないよねっていうところまで地球温暖化は、気象パターンの変化を起こしています。積極的に人が、人の可能性にチャレンジをして、システムやコミュニティ、生態系といったありとあらゆるものを再生していかないと取り返しがつかなくなってしまうというのが今の状況です。私は、人が生命本来のあり方として、どうあることがいいのかをずっと探求していて、団体としても、個人としても、地球再生活動をやっています。