「企業の倒産」に対してどのようなイメージをもっているだろうか。倒産した企業の社長は、多額の借金を抱えて人生の路頭に迷う……そういったネガティブなイメージを持っている方も多いのではないだろうか。しかし海外では事業の失敗や倒産という事象を、むしろポジティヴに捉える国もあるという。今回は事業の失敗を経験した主体者である元経営者自身の”倒産”からの精神的な立ち直りを促すための方法論について研究をしているfreee株式会社の関根諒介氏に取材した。
PROFILE
関根 諒介
freee株式会社
早稲田大学卒業後、三井住友カード、みずほ銀行を経て2016年にfreee株式会社入社。経営管理・資金調達業務と並行し、東証マザーズへの上場準備業務に従事。2021年より同社金融事業本部金融プラットフォーム部の部長となる。武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコース修士課程修了。倒産社長をはじめとした挫折体験者の精神的回復・ウェルビーイングを促すナラティヴ・デザインについて研究している。
ーー本も出版されていますが、その執筆経緯や、倒産社長の方々のウェルビーイングに関する研究活動に至った経緯についてお伺いできればと思います。
ーーポジティブな倒産社長を世の中に伝えていくことは、ある種、世の中で社長になりたいけどリスクを怖れ、一歩踏み出せないという方を鼓舞することにもなりそうですね。
ーー社長の方々のウェルビーイングは昔から研究をいろんな方がされてきたのでしょうか?関根さまが先駆者として進めているのでしょうか。
ーー倒産を経験された方々に、取材をするという行為自体難しいものかと思います。
ーー海外との違いについて、日本のほうがより倒産や失敗をネガティブに捉えるいうことについて、何か印象的なお話はありますか。
ーー国によって差がありそうですね。
ーー倒産した方は、どういったメンタルの変化が起こるのかお伺いしたいです。
ーーこういった方々を支える活動としては、どのようなものが考えられるのでしょうか。
ーー倒産社長のウェルビーイングを達成する上では、そうしたプロセスを支える人が必要というご意見ですね。
ーー今後、社会的な単位で解決が必要な課題や、解決にに向けてどのような取り組みが必要でしょうか?
ーー社長だけでなく一般的なサラリーマンも働いていく中で、仕事でメンタルにダメージを負っているのかなと思っています。誰もが簡単にできるようなメンタル面のケアやの方法があればお伺いしたいです。
ーーこれから社長になりたい人、何かを変えたい人に一歩踏み出すアドバイスをお願いします。
社長業をやると孤独になる方が多い中で、コミュニケーション相手として重要なのは意外にも利害関係のない友人(学生時代の友人や趣味仲間)でした。インターネットが普及したことでリアルでのコミュニケーションが不足しているといった声もありますが、昔からの友人と気軽に繋がれるメールやSNSは心強いコミュニケーション手段だと思います。また現状日本では倒産した社長を支援する制度が整っていないため、関根氏が言うように失敗した際の次の行動プランを立てて、コツコツ駒を進めることが重要になるでしょう。
原 健輔
anow編集部
エディター/リサーチャー
関根:もともと本を書こうと思ったのは、2昨年2022年3月まで通った武蔵野美術大学の大学院で「倒産社長のウェルビーイング」というテーマで取り組んだ研究がきっかけとなっています。
なぜそのようなテーマを設定したかというと、私が過去に銀行員として経験した挫折が大きく関係しています。
私は銀行で法人営業を務めていたのですが、当時私が担当していた企業が倒産してしまいました。私自身はその企業や経営者、従業員の方に対して、銀行員として何のお役にも立てなかったことに対する自分に対する憤りや不甲斐なさ……などを強く感じ、自分自身を責めました。それが、自分にとっては一種の挫折であり、その後の職業選択や、人生における働く目的、原動力になっているという意味では、人生における大きな原体験になっていると思います。そして、大学院に入って研究をするなら、自分の内発的な想いをもとに一生懸命取り組めること、社会的な意義がありそうなことをテーマにしようと考えました。その時に、その銀行員時代の体験を思い出したのですが、ふと一歩引いて考えた時に、そもそも倒産という事象を過度にネガティブに捉える・囚われるのではなく、どうしたら倒産を経験された元経営者の方々が、倒産後の人生でも明るく前向きに生きられるだろうかという問いを立て、「倒産社長のウェルビーイング」を実現するための方法論を探索すべく、研究がスタートしました。
まずは、世の中の「倒産社長」がどのように今を過ごされているか、倒産体験前後における感情や経験した課題、そして現在の生活などを知りたいと考え、数十名の元経営者の方々にお会いしました。これは、実際に会ってみて分かったことですが、なんとなく社会的に描かれているような悲壮的な雰囲気とは真逆の、前向きに明るくイキイキと今を生きてらっしゃる方々ばかりでした。自分自身、過去を肯定し、先を見据え新しいチャレンジをされているお話を伺うことで、不思議と勇気が湧いてきて、自分も頑張ろうというようなポジティブな感情が芽生えました。
倒産という事象に対してネガティブな意味づけをしているのは、社会的に構成されているもので、勝手に我々が持っているバイアスであり、勝手な意味づけなのだと思いました。倒産したら人生終わりなんてことはない。そこで、現在を一生懸命前向きに突き進んでいらっしゃる倒産社長の皆さんを世の中に伝えていくことで、倒産に付与されたネガティブな意味表象をポジティブに転換したいと考え、倒産社長のストーリーを記した書籍を出版するに至りました。